みなさんこんにちは、BBB映画上映会チームです!
映画『君がいる、いた、そんな時。』のアソシエイトプロデューサーで、また株式会社為一の代表を務めていらっしゃる露木栄司氏にインタビューのお時間を頂くことができました。
BBB:露木さん宜しくお願いします。
露木氏:監督にも事前に質問の解答を頂きましたので、合わせて答えさせていただきます。
宜しくお願いします。
BBB:大人、子供関係なく、それぞれ悩みを抱えながら生きている人たちの支えになる、優しい気持ちにさせてくれる映画でした。コロナによる影響が強い時期での公開だったかと思いますが、映画の封切時の各地の反響はどのような感じでしたか?
監督談:ちょうどコロナ禍での1度目の緊急事態宣言明け直後の封切りでした。この映画で伝えたかったことのひとつ「ままならなさを抱えたままでも生きていく」というメッセージが当時の状況とリンクしていき劇場においでになった方々から、今観ることができて良かった。 コロナには勝てないけれど、その中でも大切に生きていきたい、という気持ちに寄り添ってくれた、と仰っていただきました。 |
露木氏:コロナ禍の最初の初夏、5月末公開と劇場も厳戒態勢で入場制限をして公開をする体制でした。監督とも公開の延期を何度か話しましたが、とにかく公開したいという監督の思いから、予定通り公開をしました。出演者の舞台挨拶などのイベントが出来ず、もどかしさがありましたがこの状況下でも多くの人に観ていただけたのは、監督が思いを伝えたいという強い気持ちがあってこそだと思います。東京以外の公開においては、監督自身が各映画館と交渉し、公開時には自ら映画館に行く事をしていました。もちろん行動制限があって中々難しい事もありましたが、来場し映画をご覧頂いた方との接点が持てたのは監督にとっても大きい手応えがあったと思います。
BBB:呉の高台にある学校からの景色が大変印象的でした。図書室が舞台の映画は珍しいですが、理由を教えてください。
監督談:学生の頃、図書室が好きでした。 そして、図書室は通常の教室とは違い、端っこにある場所だと思っていて。けれどその端っこの場所にも小さいながらも切実なことや大切なことが存在する。という気持ちがあって舞台としました。 |
露木氏:実は、今回の取材で監督にも改めて聞いて、図書館と言う場所が好きだった事を知りました。私自身は何度も図書委員をしていて昼休み等は図書館にいる事が多かったので監督が感じる図書館の居心地は理解できました。むしろ本より図書館という場所の方が好きだったかもしれません。
ロケ地の学校は、監督は当初自分の母校で撮影を考えていた様です。図書館と言うより放送室からの眺めがとても印象的だったと言う理由です。しかし現在では周辺に多くの建物が立ち景観が変わってしまって、呉市内にある他の小学校に決めたのです。
円形の校舎はとても印象に残りますよね。
BBB:主人公・岸本役のマサマヨール忠さんと香山役の坂本いろはさんは演技未経験とのことでしたが、自然体で演じられていました。また、図書室の新任司書を演じられた小島藤子さんも素晴らしく、作品に奥行きをもたらしたと思います。演じられた方々の印象的なエピソードなどあれば教えてください。
監督談:岸本は僕の分身のようなものです。不器用で優柔不断で流されて。けれどそれでもよりよく生きていきたい。という意志です。マサマヨールくん自身もそのようなパーソナリティーに見受けられました。不器用で優しくて。 彼自身も岸本と同様に、映画撮影を通じて、ゆっくりと、けれどしっかりと変わっていったように思います。香山は僕の中で憧れの存在。弱いように見えて力強い。 香山役の坂本いろはさんは、実は女の子で。男の子として演じてもらいました。それは意図したものではなく、オーディションで選んだのですが、勘の良さと抜群の個性で、撮影を引っ張ってくれました。スタッフさんたち含めて、彼女に自然と目を惹かれる魅力がありました。 新任司書、祥子は、映画『君がいる、いた、そんな時。』の象徴です。 小島藤子さんには役作りに関して特別なアプローチ法を取りました。脚本を読んだ上で、劇中にある祥子の過去の出来事を含めて、彼女自身に祥子の具体的な過去を想像して書いてきてもらい、それをそのまま僕が受け入れる方法でした。小島さん自身が小島さんの責任の上で祥子を考え、そして演じる。僕自身が、誰かを信じることができるかという賭けでもあり、スクリーンにその登場人物の人生を映すということであれば、小島さんが祥子として生きるためには、と思って考えたアプローチ方法でした。 |
露木氏:出演者として決まるキャスィングについてお話しすると、子供の役のうち、岸本役は本当の日本人とフィリピン人とのハーフであることにこだわり、東京の俳優事務所を中心に探しました。
香山役と他のクラスメイトは、地元呉市で公募してオーディションで決めました。香山役は女の子が男の子を演じるという事は正直驚きましたがそれだけ魅力ある子供に出会えたんだとすんなり受け止めました。監督には決まる前には色々とアドバイスをしましたが選考過程や決定後には私からは何もいうことはなかったです。出演者のことは監督自身で責任が取れる範囲ですので任せるしかないなと思いました。
図書館司書・祥子役の小島さんについては最後までイメージに合う人が見つからず難航しました。私の知人のキャスティングをされている方に相談しました。とても難しい役どころでしたが、小島さんは多くのキャリアがありましたし、ご自身で役のことを考えられそうな芯がある俳優と思っておりましたので演じられると思いました。
また、撮影現場で子供達の演出で監督はかかりっきりになることは想定されましたので撮影前に役作りができている配役がいないと乗り切れないなと思いました。そんな意味でも小島さんはとても助かりましたし、監督の難しい注文にも応えていたと思います。
BBB:様々なジャンルの映画をプロデュースされている露木さんですが、ご自身が一番影響を受けた映画や書籍を教えてください。
露木氏:黒澤明の『天国と地獄』と金子正次主演の『竜二』です。
『天国と地獄』(1963)のキーとなる身代金引き渡しの現場のロケ場所が私の高校の近くで毎日、東海道線で通学していました。自分が好きな映画監督の名作のロケ場所を毎日通っていた事でとても映画が身近に感じる事ができましたし、その周辺で高校の部活で映画を撮影した思い出もあります。
『竜二』(1983)は、俳優の金子正次さんが自分の主演作品を作りたくて、脚本を書いてお金も集めて作った作品です。新宿の東映セントラルという小さな劇場で公開され、公開中に金子さんは癌でなくなります。闘病の中、命を削って作った作品という衝撃とともに、当時は自主制作映画が映画館で公開もできない状況の中だったので、映画を作る事も公開する事も大きな映画会社に頼らなくていいんだと思うきっかけとなった作品です。当時は東宝、東映、松竹、日活が作る映画をそれぞれの劇場でしか公開されず、唯一ATGが独立系として頑張っていた時代です。作品自体も素晴らしかったのですが映画公開までのプロセスはとても影響を受けたと思います。
書籍は、ある時期から映画の関連書籍を中心に読むようになってしまったので・・・。
藤川黎一(ふじかわれいいち)著 『虹の橋 黒澤明と本木荘二郎』ですね。黒澤作品初期の『生きる』や『七人の侍』のプロデューサーです。黒澤映画のことや東宝を辞めてからは教育映画やピンク映画の演出をしていた事が綴られています。私が映画監督よりプロデューサーという立ち位置で関わるきっかけとなった書籍かもしれません。
もう一作品あげるとすると『ワンプのほし』(ピル・ビート著)です。これは両親から幼少期に買ってもらった絵本です。ワンプという動物の星に外から侵略者がやって来て開発をして自然破壊してしまい、汚れきった場を捨てて他の星に行ってしまう。地下でひっそりと暮らしていたワンプ達は、再び地上に出てくる話です。読んだ70年代は自然破壊や公害問題が話題になった時代です。映画ゴジラシリーズの「ゴジラ対ヘドラ」(1971)という作品がその象徴でしたが「地球温暖化」という概念も言葉も存在しなかった時代です。幼心に自然破壊の怖さと愚かさを感じた本で今でも心に残っています。
BBB:最後に作品を鑑賞された方にメッセージをお願いします。
露木氏:コロナ以前に作られたこの作品は、作るときには想像もできない事が起こり、コロナ禍の中公開されましたが伝えたいことは何ら変わらないことに気づかされました。顔の見えない友達や黙食の給食など、この3年間の経験は子供達にとってとても大きなことだったと思います。そんな人たちにも思いっきり声を出していいんだよ、大切な人の為にできることをしようと思う気持ちが大切だよ、そんなことがご覧になった方に伝われば嬉しいです。
BBB:本日は色々とお話をいただき、ありがとうございました。
露木 栄司
映画『君がいる、いた、そんな時。』アソシエイトプロデューサー
映像制作会社でディレクターを経て、映画学校・ニューシネマワークショップで24年間にわたり監督養成コースの講師を務める。現在は株式会社為一代表となり、映像作品の制作と運用の他、オリジナルキャラクターの企画開発を進めている。
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